「デザイン思考が世界を変える」

デザインコンサルティングファームIDEOのTim Brownが書いた本書。

デザイナー、もしくはデザイナー的な発想を製品やサービスの初期段階から取り入れることで大きなイノベーションを起こすことができると著者は主張する。

デザイン思考とは何か本書では厳密な定義はされていないが、人間の営みや行動を深く洞察しコンセプトを掲げ、モノを作り上げていくという考え方なのだと思う。世の中に溢れるものを深く洞察し、何度もプロトタイプを作り、試行錯誤を繰り返して描いたものをかたちにしていく。「偶然性」「自発性」「直観的」などがキーワードとなる。

このデザイン思考の必要性の根源は「人間とは合理的ではなく複雑なものである」という前提であり、これが今まで資本主義の経済モデルに欠けていた部分である。今までの経済モデルは、消費者の求めるものは画一的で、その「消費者/顧客」という虚像に対して企業は恐怖心、虚栄心につけ込むような大量の広告宣伝、プロモーションを打ち込み画一的な製品/サービスを提供し利益を得るという形態であった。その中で競合企業と競争を行い、製品の画一化、コモディティ化が進み行き詰まる。この状況を打破するためには、人間とは複雑な存在であるという前提を起点とし、人々が気付いていない内なるニーズを明らかにするデザイン思考が必要となる。

デザイン思考が取り入れられた製品、サービスが流通する市場では、企業の視点は「顧客/消費者にどういう行動をしてもらうか」という発想から「彼らと一緒に何ができるか」という発想になる。最近、マネジメント関連で飛び交っているサービスドミナントロジックという言葉もこのような発想が原点となっているのだと思う。

この新たなモデルがうまく機能するためには合理性や生産性といった既存モデルで重用視してきたものとデザイン思考の自発性、偶然性といった相反するものをバランスよくくみ上げていくリーダーでありシステムが重要となると思う。ビジネス業界に身を置く一方でデザイナー的な視点でモノを作るアーティストのような複雑なバックグランドを持つ人々が近い未来、世の中に求められるようになるのかもしれない。

デザイン思考が世界を変える―イノベーションを導く新しい考え方 (ハヤカワ新書juice)