Vidal Sassoonの生涯を描いたドキュメンタリー映画を観た。

恥ずかしい話ではあるが、正直なところVidal Sassoonが人の名前だということをこの映画の存在に気付くまでは知らなかった。美容やファッション業界では偉大なるカリスマとして崇められているVidal Sassoon、現在生きている美容師の中で彼の影響を受けていない人はいないと言われている。

1960年代に彼は女性のヘアスタイルにパラダイムシフトをもたらした。それまでの女性の髪型というとパーマを当てて髪を巻き、ボリュームを持たせた、いはゆる貴族階級の文化から派生した形が主流であった。彼はそこに疑問抱き、人の髪の流れに逆らわず、頭蓋骨の構造に合わせた、自然で”geometical (=幾何学的)”なカットを8年の試行錯誤を経て生み出す。1960年代というイギリスの階級社会の崩壊、女性の社会進出などを後押しする形でSasoonのスタイルは一気に広がっていった。

映画の中で一番心に残ったシーンはサロンの中で実際に顧客にむかって新しいスタイルを提案する場面である。スタイリングをしながら、顧客と1対1の会話の中で実に自然に新しいgeometicalなスタイルを提案していた。Sassoonは自分のcockney アクセントを直すために3年間ほど演劇学校に通って自分の話し方を強制したらしい。そこで人を魅き込むための話し方を身につけた。パラダイムシフトというと非常に大きな動きが起こるイメージであるが、どの変革も最初は1:1の関係から徐々に広がっていく。この会話のシーンはSassoonの変革の種が芽吹き始めた瞬間であり、自然に描かれてはいるけれども個人的には何とも言えない清々しい緊張感を味わうことができた。

このシーンのように、この作品には社会を変革するためのヒントがSassoonを通して見ることができる内容となっている。ファッションや美容に興味がない人でも一人の社会を変革した人の物語として十分魅力的な作品である。